読書備忘録 “いつも傍に本があった。”

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ヘミングウェイ、おすすめリスト

一時期ヘミングウェイにはまり、読みふけっていた時期がありました。
年を取ってからまた読みたい作家の一人です。
世界的に有名な小説ばかりですので、一度は読んでみて損はないと思います。
読みやすい順に並べます。


老人と海



【内容情報】(「BOOK」データベースより)
キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく…。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。

ヘミングウェイの小説で、最も有名なのがこの『老人と海』ではないでしょうか。
老いてなお不屈の精神を持ち続ける海の男。静謐な描写で表現される大魚との戦いは美しさすら感じさせる。男なら誰もが一度は憧れる世界観です。
ヘミングウェイの「強い男」としてのイメージもこの小説によく現れていますね。
短編小説としても完璧です。薄い本なのでヘミングウェイ体験に最適。

誰がために鐘は鳴る




全ヨーロッパをおおわんとするファシズムの暗雲に対し、一点の希望を投げかけたスペイン内戦。1936年に始まったこの戦争を舞台に、限られた生命の中で激しく燃えあがるアメリカ青年とスペイン娘との恋を、ダイナミックな文体で描く代表作。義勇兵として人民政府軍に参加したロバートは、鉄橋爆破の密命を受けてゲリラ隊に合流し、そこで両親をファシストに殺されたマリアと出会う。

映画で観たことがある人のほうが多いのではないでしょうか。
恋愛あり、ゲリラ戦闘あり。現代まで続く伝統的な「THEアメリカ戦争モノ映画」で、通俗感があることは否めませんが、原作は本物の戦争を描いています。
著者自身の戦場体験が織り込まれていると思われ、描写には薄ら物憂い匂いが漂う。
ヒーロー的な通俗小説の装いをしながら、実はティム・オブ・ライエン『本当の戦争の話をしよう』と共通の理由で書かれた小説と思います。
戦争の生々しいトラウマを見ることに拒絶感のある人は、まずこの辺りから本物に触れるといいと思います。


武器よさらば



苛烈な第一次世界大戦。イタリア軍に身を投じたアメリカ人青年フレドリックは、砲撃で重傷を負う。病院で彼と再会したのは、婚約者を失ったイギリス人看護師キャサリン。芽生えた恋は急速に熱を帯びる。だが、戦況は悪化の一途を辿り、フレドリックは脱走。ミラノで首尾よくキャサリンを見つけ出し、新天地スイスで幸福を掴もうとするが…。現実に翻弄される男女の運命を描く名編。

著者の自伝的小説です。
「小説とは・文学とは何か」というと、やはりそれは一個の人間として生きてきた足跡を、命注いで文章に写し取るということではないか? と私は思います。
その命注いで書かれた他人の人生を読者として受け取って、初めて「読書が糧になった」と言えるのではないか。
他人の人生を味わえる唯一のツールが、小説というもの。
本を読むという行為にしても、一生のうちのある一定の時間を割くわけなので、なるべく生きる糧になるものを読んだほうが良いのではと思います。

はっきり言ってヘミングウェイのこの自伝小説には鬱の臭いが強く漂い、引きずり込まれそうになります。それでもこれは貴重な一個の人生として味わう価値があります。


日はまた昇る



第一次大戦後のパリ、そしてスペイン。理想を失った青年たちは虚無と享楽の生活に明け暮れる。釣り、祭り、闘牛、おしゃべり、明るい南国の光の下でくりひろげられる“失われた世代”の青春の日々。果てしない祝祭の日々は、いかなる結末を迎えるのか。彼はこの原稿を二十六歳の誕生日にスペインのバレンシアで書きはじめた。ハードボイルドタッチで若者の代弁者と喝采を浴びた初期の代表作。

同上。
他人の痛みを感じ取る感性がなければ退屈なだけでしょう。
若い頃に読もうとして挫折した人は、人生の悲哀を味わう年齢以降に読むと理解できるかもしれない。


何を見ても何かを思い出す


炸裂する砲弾、絶望的な突撃。凄惨極まる戦場で、作家の視線が何かを捉えたー1937年、ヘミングウェイはスペイン内戦を取材、死を垣間見たこの体験が、以降の作品群に新たな光芒を与えることになる。「蝶々と戦車」を始めとするスペイン内戦ものに加え、自らの内面を凝視するラヴ・ストーリー「異郷」など、生前未発表の7編を含む全22編。遺族らの手による初の決定版短編全集、完結編。

私が思うに、ヘミングウェイの真骨頂は短編です。
これこそ「本当の戦争の話をしよう」で、鬱病をわずらった著者が、鬱々と思い出語りをします。
このパターンの文学を嫌う人は心底嫌うはずです。

私もさすがにこれは同調し過ぎていよいよ引きずり込まれるな、と感じたので(個人的事情によりその可能性は強い)ここらでヘミングウェイから撤退しました。
しかし危険を感じてしまうほどに本物であることは確かです。

だから、いつか「そろそろ死んでもいいだろう」という年齢になった頃に再び読みたいと思うわけです。


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たまにはビターな恋愛小説でも。大人の恋愛小説7選

あまり恋愛小説を好んで読む人間ではないのですが、適当に手に取った本が恋愛小説で、気付けば読みふけっていることが時々あります。
甘いものよりもビターなほうが好みです。
ここに、そんな私が偶然出会って良かったと思う数少ない恋愛小説をまとめておきました。
(他記事と重複あり)

ナラタージュ




高校時代の男性教師との、痛みを伴った恋愛。
執筆した著者の時間がまだ主人公と近いせいか、恋愛の痛みが現実そのまま写し取られており、小説というよりは風景を撮影した写真に近いのではと思うほどです。
だらだらと日常生活を描く箇所がありそれを嫌がる読者もいそうですが、そのような日常を描いたのも「現実そのままの描写」を求めた著者の想いからと感じられます。
写真である故、恋の思い出はリアルで痛々しい。まるで主人公自身が思い出語りをしているかのような、瑞々しく素直な表現は胸に迫り恋愛の痛みや愚かさを思い出させてくれます。
もちろん男にとっても、これは思い当たる苦い過去を蘇らせてくれる小説と思います。(男はむしろ恋愛の醜さに目を背けたくなるかもしれません)


夜の果てまで



主婦と大学生の不倫。そしてその果ての逃避行。
こうしてストーリーを紹介するとあまりに陳腐ですが、この小説はリアリズムを究めるために描かれたものと思います。
並みの小説家が芸術家ぶってぼかしたがる風景、時代の描写が徹底して細部まで書き込まれ、そのために時代の薫りや空気感まで迫って来るように感じられます。
そのリアリズムを究めた筆が容赦なく、恋愛の「現実」を描き出す。
甘いだけではない、重く痛い現実がここにあります。痛い過去を思い出して傷をえぐられるような想いをする読者は多いはず。
ただ、どちらかと言うと男性向けの恋愛小説となるでしょうか。
レビューを見るとあまり女性には受け入れられていないみたい(設定から生理的な反感を覚えるらしい)なので、女性は注意してください。


切羽へ



離島で、物静かな夫と暮らしている女性教師が新任教師と出会い、心揺さぶられる……。
この設定だけでもうストーリーは想像出来るでしょうか。陳腐なロマンスを求める読者のご期待も裏切らない気がします。
しかしタイトルに『切羽へ』とある通り、実はこの小説で描かれているのは崩壊の危機感です。
主人公は日常に満足していたはずなのに、気付けば先のない「切羽」へ誘われ追い詰められて行きます。日常の水面下で繰り広げられる音のない戦いが、ぴりぴりと肌を刺すように感じられます。
(もはや恋愛小説の読み方ではないか、笑)
この真剣勝負に精神的エロスを感じる人もいるでしょう。


静かな爆弾



公園で知り合った女性は耳が不自由だった。そんなことなどお構いなく心と心が次第に通っていき、温かな恋愛が始まり、やがて普通の恋人同士となるが……。
甘く心温まる恋愛小説と思わせて、実はそうではありません。これもリアリズムを求めた小説です。人間同士の付き合いの難しさ、人間性の根源を垣間見せてくれます。恋だの愛だのだけでは満足出来ない大人に、読んでいただきたい作品です。
何が巧いって、このタイトル!
読んでいくとタイトルの巧さに感嘆してしまいます。
ラストはもしかしたら作者の意図とは違ったかもしれませんね。ドラマ化を意識したのか、世間の反感を意識したか。いずれにしても現代作家の置かれた難しい立場を感じて、妙に複雑な気分になりました。

東京タワー



年上の主婦と不倫している男子学生の日々。
彼女と話を合わせようとして、彼女の好きな音楽を聴いたりするなどの必死さが痛々しく切ない。
主導する側ではなく、常に「飼われる」側である受け身の切なさがリアルでした。
決して甘い気分にさせてくれることはありません。これもリアリズムの小説。受け身側(つまり犠牲者)としての痛みが巧く描かれた小説です。
同じ経験のある方はきっと涙し、癒されるのではと思う。
(筆者はこのような経験はありませんが、何故か生贄としての完全受動の精神は共鳴するものです。おそらく、年上の人々がいなくなり「置いて行かれる」というどうしようもない立場もこれに近いのかな)

私の男



恋愛とは程遠いシチュエーションなのかもしれない。でも、これも愛であろう。
同じ桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』で描かれた、「好きって絶望だよね」を被害者側の視点から(身体的虐待を抜いて)ストーリー化した小説のような気がします。
筆者はだんぜん『砂糖菓子』の友情のほうが好きなのですが、これもまた痛々しい一個の愛情物語です。


VOICE



『いま、会いにゆきます』で有名な市川拓司(たくじ)氏の処女作です。ストーリーは失礼ながら細かいところを忘れてしまったので紹介文を引用させていただきます。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
高校生の悟はある日、隣のクラスの裕子の心の声を聞くという不思議な体験をする。その後、偶然、近くの森で出会った二人はお互いの境遇を語り合ううちに惹かれあい、付き合うようになった。しかし、悟は受験に失敗。彼女は東京の女子大に進学することに。距離のできた二人は、それでも共鳴しあう心がお互いを強く結びつけていたが、次第に彼女は新しい世界を広げてゆく。やがて、彼女の心の声が聞こえることが悟を苦しめてゆくことに…。ベストセラー作家、市川拓司が儚く壊れやすい恋愛を描いた珠玉の青春小説。
『いま会い』は心洗われる夫婦愛の小説で素晴らしいと思いましたが、個人的に小説としてはこちらのほうが素晴らしいと思いました。
瑞々しく純粋な表現の一つ一つが胸に響きます。(ストーリーよりも、その文章で描かれた心の襞に)
もし小説について「芸術」という言葉がまだ許されるならこの小説に言いたくなります。
文学賞で強要される小説作法の、なんて無意味なこと。現代日本の誰が決めたか知らない「小説作法というルール」で篩にかけられなかったからこそ、この芸術が生まれたのだと感じます。
これほどにも美しい表現の小説は日本ではもうお目にかかれないでしょう。

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ファンタジー小説、個人的おすすめ9選

 決して「これだけ読めば間違いなし」というファンタジーのスタンダード・リストではなく、個人的な好みで並べるだけですのでご了承を。あまり多くの方の目に留まらない作品をご紹介できればと思います。
(3/14『東方綺譚』追加)


東方綺譚



東方綺譚 (白水Uブックス (69))


ご紹介いただき最近読みました。感謝。

東方(アジア~中東)の昔話や伝説をモチーフにした短編集です。
ギリシャ詩文やオリエントの歴史に博学な著者による、ホメロスさながら比喩を駆使した描写が美しい。
ファンタジーではありますが、人間の醜さも哀しさも評価せず描き出すこの物語は、人生を味わう文学として大人の方にお薦めします。

第一話、『老絵師の行方』の情景描写は最も鮮烈な描写で圧倒されます。文から鮮やかに放たれる色彩が、脳裡に再生されるごと眩暈を覚えます。
東洋は、かくも美しかったのか。
今は失われた古の景色を想い、胸が締め付けられます。

私は第一話の第一文から惹きつけられました。長らくこういう濃厚な小説を読んでいなかったので、充たされる想いです。
個人的には『老絵師の行方』が最も好きです。「漢代」ということで私には響くものはあったのでしょうが(とは言え描写は漢代だけではなく清代と混ざっている気がしますが)、何より性的な匂いが比較的に薄い作品で、弟子の想いの清潔さが好みでした。(秘められた設定はともかく。女性が読むとまた違う感想となるかも)
『源氏の君の最後の恋』も、日本の情景の美しさが老いの哀しみを引き立たせ、味わい深いものです。
ニンフ(ギリシャの妖精)の話になると、我々極東から見ればもはや「東方」の情緒はなく「西方」ですね。描写の耽美さは若干劣りますが、人間の貪欲さと卑しさ、それに伴う哀しみを描き出す筆に慈悲を感じます。特に女性にはお薦めでしょう。

ところで、西洋人の脳を一度通過した東洋の景色はどうしてこれほどにも神秘的で美しいのでしょうか。
東洋のような、東洋でないような。まるで天才老絵師の描いた絵のような究極の美しさは、どこか死後の景色にも近い気がします。



シュナの旅



何を言おうと私はかつての宮崎駿の目指したものが大好きでした。好きだから最後となった作品の『風立ちぬ』が残念で、文句を言ってしまった。
アニメ映画では『ナウシカ』が最も完璧だったと思うのですが、彼の作品の中で最高峰と思うのは、実は映画ではなくてマンガです。
それも『シュナの旅』という、一冊で終わるとても短い物語。

シュナの旅 (アニメージュ文庫 (B‐001))


ストーリー: 貧しい国で人々が飢えていくのを見かねた王子シュナは、伝説の豊穣をもたらす「金の種」を求めて旅立つ。チベット民話がモチーフの素朴なファンタジー。

無駄を削ぎ落とした静かなストーリーは、人の心の根底に眠る古い時代の記憶を呼び覚まします。
私は最初から惹き込まれて一気に読みました。
最近のゲームファンタジーのような派手な冒険はなく、展開も地味なのですがそこが良い。絵も素晴らしく丁寧で誠実な作品。

これを、「現代アニメではありがちな設定。展開が地味。つまんない」などと言って切り捨てる人はどれだけ感性が鈍いのだろう?と思います。
なんでも「設定ありがち」と切り捨てたら古典など絶対に読めないだろうが。
感性が貧しい人が実に多い。

『シュナの旅』は地味なストーリーであるから、当時のアニメ界での成功は見込まれず、宮崎駿はこれの映像化を断念してマンガとして世に出しています。宮崎氏本人によるその愚痴には同情しました。
こういうシンプルな物語を「ありがち。つまんない」と言う、まさにそんな感性の貧しい観客に翻弄された結果が最後のあのジブリ作品なのかと思うと、たまらなく残念なのです。
もし宮崎駿が引退前に観客の意見を募っていたなら、私は最後の作品に『シュナの旅』を推していたと思います。

ただアマゾンに掲載されている門倉紫麻氏の言葉、「アニメという万人に向けた形をとっていれば、また違うものになっていたはずだ」という意見にも同感です。アニメ化されることで地に落ちるくらいなら、これはこのままのほうが良い。



ゲド戦記



ゲド戦記 全6冊セット (ソフトカバー版)


アニメ映画は評判悪かったようです。
どうやら始めは原作通りに作ろうとしたのだが、宮崎吾朗氏が上の『シュナの旅』を織り交ぜて作ろうとしたために、半端な作品となってしまったらしい。
この映画が理解不能だったせいで原作の『ゲド戦記』を手に取る人も少なかったのでは、と思います。

でも原作『ゲド戦記』はそんなに悪いものではない。と言うよりも次元の違う名作です。
哲学ファンタジーと呼べるようなもので、根底に古今東西の思想があり、読者を深い思索に誘う力を持ちます。
私がこのファンタジーと出会ったのは大人になってからなので、残念ながらつい知識をもって読んでしまうのですが、子供の頃にこの本と出会えた人は幸せだと思います。イメージ力、メタファーを解釈する力、思索力を養うのに最高の物語です。

個人的には「真実の名」という、東洋の諱(いみな)のような設定が面白かったです。そもそも古(いにしえ)にはそのような伝説があって、諱はそこから発祥したのでは? などと空想させられました。
どこか東洋的な雰囲気漂う西洋人の物語は、神秘的で面白い。同じく東洋の雰囲気漂う『スターウォーズ』も、たぶん『ゲド戦記』に影響されているのではと思います。

※私は2巻辺りまで読んだところで読む時間がなくなり、積読中



アーサー王と、薤露行



新訳 アーサー王物語 (角川文庫)
新訳 アーサー王物語 (角川文庫)

ファンタジーを語るならまずこれを読まなければならない。
そう言われるほど基本中の基本、最低限のファンタジー教養です。
全ての西洋を舞台とするファンタジーが何らかの形で、必ず『アーサー王』の影響を受けていると言っても過言ではありません。

『アーサー王』を読んだことがない人も、石から剣を抜く青年のイメージはどこかで見かけたことがあると思います。

冒険あり、魔術あり、恋愛ありのエンターテイメントなのですが、不義の展開が多く共鳴する部分がないため正直面白いものではありません(笑)。西洋にはファンが多いけど日本人の肌には合わないでしょう。
ただこれは子供のように物語を面白がって読む種類のものではなくて、教養として読むものと思います。

ところで夏目漱石も『アーサー王』を題材にした作品を書いていて、こちらは恋愛文学として一読の価値ありです。

薤露行
薤露行

「薤露行(かいろこう)」とは、“人生はハスの葉の上の水滴が乾くように、一瞬にして過ぎ去る”という歌の題。
漢代の中国、貴族の葬式で歌われる葬送歌です。
西洋ファンタジーに「薤露行」というタイトルを付ける漱石のセンスの良さに眩暈がします。




ネバーエンディングストーリー(はてしない物語)



はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)
はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

あれは、私がこの小説の主人公と同じくらいの年の頃でした。図書館で、分厚い赤い本に惹かれて手に取りました。
「読書好きの少年がある時、赤い装丁の本を手に取る。本の内容は壮大なファンタジー。本の中で『ファンタージエン国』は今にも虚無に飲み込まれようとしていた。国を救うためには英雄が必要。その英雄の名とは―― え、本を読んでいる自分!? やがてその本の中から自分を呼ぶ声が聴こえる……」
まさに読書している自分と重なる設定なので、本の中から呼ばれるのではないかとドキドキしながら読みました。
子供心をつかむ仕掛けが満載の、脳内で作り上げるバーチャル・リアリティ・ファンタジーと言えます。子供にお粗末な3D映画を見せるくらいなら、この本を読ませたほうが遥かにイメージ力を鍛えられるはずです。

主人公が引き込まれるファンタジー国の世界観も繊細で美しく、惹き込まれます。深い思想をベースにした物語は大人でも楽しめるはずです。
この小説は映画となっています。CGのなかった時代、巨大な美術セットで造り上げられた美しい映像はとても好きなのですが、主人公が異次元へ吸い込まれるところで終わっているのが残念です。物語の本題はその後にあるというのに。
子供ながらに考えさせられたストーリー。いつかもう一度読みたいものです。



楽園



楽園 (角川文庫)
楽園 (角川文庫)

日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。
鈴木光司は『リング』シリーズが売れて有名となりましたが、それらの商業作品より遥かに芸術性の高い秀作です。おそらく鈴木氏が本当に書きたい小説とは、こちらの系統だったのだろうと感じます。
(残念ながら当初この芸術性高い作品は売れなかったようです。生活のためホラーを描いたところ、ようやくヒットしたとか)

古代のゴビ砂漠から始まり、18世紀南太平洋を経て、現代アメリカへ。
輪廻転生を思わせる壮大なストーリーの中で、男女のロマンスが描かれます。
「輪廻転生」と言ってもお子様向けの生まれ変わり物語ではなく、アジア大陸からアメリカ大陸へと人類が移動し、DNAが受け継がれていったということを象徴的に描いたものです。
人類を巻き込む、スケールが大きな愛の物語と言えます。

読み終われば長い長い映画を観たような充足感を覚えることでしょう。
『リング』も良いけど、この作品もぜひ読むことをお薦めします。



扉を開けて



扉を開けて
扉を開けて

最も有名なファンタジーと言えば『ナルニア国物語』ですが、子供の頃にナルニアが好きだった著者が小説家となり、書いた作品がこちら。
ライオンに乗ったり剣を振りかざしたり、どこかナルニアっぽい。でもあのライオン、実は人間なのです。

主人公たちは1980年代の東京に住む超能力者たちです。
主人公は念力者、友人はテレポーター、そして月夜にライオンに変身してしまう男。この三人が異世界へ飛んで大活躍する物語です。

小学校の頃、それまで推理小説好きだった私の趣味を一変させるほど熱中させてくれた小説でした。
面白くて面白くて、何度も読み返したのを覚えています。
もし大人になってから読んだのだとしたら、幼稚な文体に馴染めず最初のほうでやめてしまったのかもしれませんが、子供だった私にはとにかく中毒してしまうほどの面白さでした。

思い返せばこれは、戦争で活躍する英雄の物語なのですね。
それも古代的な国で、現代人が知恵を駆使して戦闘に勝利するという。よく考えてみれば私は個人的な事情にて、そのようなところにはまっていただけかもしれません。

ただ新井素子の作品ではその後『グリーン・レクイエム』や『ラビリンス』を読み、さらに深い衝撃を受けました。
子供だったせいなのか、あまりの衝撃で眠れず、夜中に部屋をうろうろした覚えがあります。
特に『ラビリンス』はもう一度読み返したい秀作です。
若い方にはお薦め致します。

グリーン・レクイエム (講談社文庫)
グリーン・レクイエム (講談社文庫)

ラビリンス(迷宮) (徳間文庫)
ラビリンス(迷宮) (徳間文庫)




十二国記



月の影 影の海〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)
月の影 影の海〈上〉 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)


同じく和製・異世界ファンタジーとして有名なのはこちら。
(和製なのに何故か中華、という点はご愛嬌)
90年代に十代の間で流行した小説ですが、今でも熱狂ファンがいるほどの人気作品です。

同じ異世界に飛ぶ設定でも、『ナルニア』等とは違って全体に暗さのあるダーク・ファンタジーと言えます。
『扉を開けて』と比べるのも面白いです。バブル期の若者である『扉を開けて』の主人公たちが、「現代に帰りたい」と切望し帰還するところでめでたし・めでたしと終わるのとは逆に、『十二国記』の主人公たちは異世界へ行ったきり帰って来ません。
いや、そもそも異世界生まれの主人公たちにとってはこの現世こそ「異世界」であって、あちら側が故郷。現世では「疎外感」を感じており、元の国へ戻ることで自分の居場所を取り戻す……。
なんとも言えない複雑な気分となる設定です。

誰でも十代の頃は疎外感を感じ、「自分の本当の居場所はここではないんだ」と思うもの。それで、異世界へ行きたいと妄想したりします。それ故、異世界逃避設定はいつの時代も十代から絶大な支持を得ます。
しかし逃避したままでは駄目で、必ず現世へ戻って来て歩き出さねばならないと思うのに、この作者は「行ったきり」を選び取る。そのような逃げたまま設定があるのだ、あっていいんだ、という衝撃とともに新ジャンルを開いた作品だと思います。
著者はもしかしたら意図していないのかもしれないが、このあってはならない設定こそが人間の心の闇を考えさせる秀作となっています。
(アマゾン・レビューを読むと、この小説は「カウンセリング小説」と言われていて、現代の若者に癒しを与えているそうです。他人はしょせん他人、闇に生きて幸福な日常を夢見ないクールな心理が共感されているのかもしれません)

とは言え私はファンの方々のように、この作品に熱くはまるということはありませんでした。戦闘などの細かい設定を愉しむことも出来なかった。終始、上のように冷めた目で分析してしまいました。このためシリーズ最初のほうで挫折しています。

ただし個人的には、「麒麟」という存在だけに共鳴しました。
一人の主人に忠誠を誓えばその誓いを覆すことは出来ない。また、血に弱く、世のどこかで殺戮が行われていると弱っていき死に至るという聖獣。
いかにも中華的なメタファーです。
この一点に共鳴し過ぎてしまう自分もなんだろうか、とは思います。



ますむら・ひろし宮沢賢治選集



銀河鉄道の夜―最終形・初期形〈ブルカニロ博士篇〉 (ますむら版宮沢賢治童話集)
銀河鉄道の夜―最終形・初期形〈ブルカニロ博士篇〉 (ますむら版宮沢賢治童話集)

宮沢賢治は、小説で読むのももちろん良いのですが、私は個人的に ますむら・ひろし という漫画家の作品が最高と思います。

登場人物は何故か全て、猫。
この時点で「なんで猫?」と疑問符が浮かび、生理的に受け付けない方は多いかもしれません。
ただ絵は緻密でファンタジック、闇も包含した独特の濃厚な世界観があり、私はこれ以上に賢治世界を再現したものはないと思うのです。

『銀河鉄道の夜』には15歳の夜に触れて、号泣しました。
それは後から考えればやはり私個人の事情による号泣だったのですが、ますむら・ひろし画の猫たちの表情や背景が切なく美し過ぎて、なおさら泣いてしまったところがあります。
以来、ますむら画の賢治作品は私の人生に刻まれる大切な思い出となっています。

(ところでこの漫画を貸したところ、「気色悪い」という表情をしながら無言で返してきた人がいました。絵が生理的に苦手ということもあったのかもしれませんが、それより単純に『銀河鉄道の夜』のストーリーが理解出来なかったらしい。現代人の感性の貧しさはここまでなのか…)

ますむら氏の絵による賢治作品『グスコーブドリの伝記』は、数年前にアニメ映画化もされました。
原作通りというわけではなく、またジブリのようなエンターテイメント・ファンタジーでもないため評判は悪かったのですが、賢治精神のエッセンスを並べたような映画とは言えます。ラストは様々な賢治作品を(勝手に)思い出し、涙が浮かびました。
でも、出来れば賢治の原文または ますむら氏の原作を読んだほうが良いでしょう。

この画がきれいなので、大きい画像をリンク。

グスコーブドリの伝記 [DVD]
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奇跡を感じられる、スピ風味のおススメ小説

ハッピーニューイヤー。
せっかくの新年です。巷には嫌なニュースが多いけど、少し空を仰いで奇跡を感じてみませんか。
「奇跡」と言っても、本格スピリチュアルでは疲れてしまう方も多いでしょうから、ソフト・スピリチュアルと言えるようなほんのり奇跡が漂う小説をご紹介していきます。


スター・ガール



ある高校に一人の女の子が転校して来る。
奇抜なファッションに身を包み、変わった行動をとる彼女はクラスで浮いてしまうのだが、主人公は次第に彼女が真実の人であることに気付いていく……。
ごく普通の青春小説の形を取っているし、超能力などの目に見える奇跡は起きないのだけど、じわじわと「奇跡」が伝わって来る小説です。キリストや釈迦など人類から一歩突き抜けた人が、ごく普通の高校生をやっていたらこんな感じなんだろうと思わせます。
それでも宗教的な匂いはなく、爽やかな読後感です。
ファンタジーを描かずに「奇跡」を描くこの小説は本物。この小説の存在こそ「奇跡」とも言えます。多くは語らないので、とにかく読んで体験してください。


奇跡を信じて



なんだこの宗教本みたいな装丁は! 
と始めは思いましたし、あの「超訳」という文体に馴染めず、読み始めてすぐにギブアップしてしばらく放置していました。
しかし、ある時ふと読んでみたら引き込まれ、最後は涙が止まりませんでした。
日本では『セカチュー』なんて小説が流行りましたが、ごめんね比べものにならない。「奇跡」とは愛のことであり、愛のない小説では感動出来ないのですよ。
この小説には愛がある。愛の思い出は空虚さでも喪失感でもなく、これほどにも温かく満たされているもの。
ちなみに原題は『A Walk to Remember』。同タイトルの映画もあるようです。



パウロ・コエーリョの本

彼の本はとにかく何を読んでも「奇跡」を感じ、感動します。
古典的なファンタジーのような美しい物語を用いて、自然に神秘が身体に染み込むよう導いてくれます。
特に、どなたにも『アルケミスト』を絶大にお薦めします。
童話のようですが大人こそ読むべきです。人生で大切なことは何か思い出し、肩に入っていた力が抜けて涙が流れるでしょう。






こちら『11分間』だけ恋愛小説で大人向けです。性的な話ではあるのですが、ここには「真実の愛」と運命の出会いが描かれています。



リチャード・バックの本

世界的名作、『かもめのジョナサン』を読んだことがありますか?
あの小説はキリストを表現したものと言われており、ヒッピーにも影響を与えるなど一大ムーブメントを起こしたそうですが、その時代に生まれていなかった私にはそういう解釈はピンと来ません。

私が『かもめのジョナサン』を読んだ時は、宗教ともヒッピーとも無縁の、非常に個人的な「奇跡」と感じました。最も深いところで共鳴したものです。誤解を恐れずに言えば、ジョナサンは自分だと思いました。ジョナサンが求めた世界は自分も知っているし、とても懐かしく、彼の孤独には涙が出た……。

後にバックの自伝的小説を読み、やはり『ジョナサン』は宗教とは何ら関係なかったんだなと知りました。むしろ現代スピリチュアルに近いようです。
「キリスト教的」とさんざん言われたこの本の著者が、実は大の宗教嫌いで全ての組織的宗教を否定しているのは笑えます。(むしろ組織的宗教の批判のために書いたのだろうなということが、『かもめのジョナサン完全版』で分かる)







私は生まれる見知らぬ大地で



始め何の物語なのか分からず退屈で、下品なオバチャンにしか思えない登場人物にも全く魅力を覚えなかったのですが、次第にこのオバチャンがとんでもなく高い人格を持つ女性だということが分かってくる。
そして明かされるのは、この小説が真実の転生物語だということ。奇跡の再会に泣かされる。

日本で「輪廻転生」を描いた物語というと、前世の恋人同士が再会するなどのありきたりなファンタジーくらいしかなく、真実性は感じられません。
ところが西洋だとこのように美しい転生物語が誕生するのだから不思議です。
思うに日本などの東洋世界では「輪廻転生」など当たり前過ぎて、使い古されたファンタジーの設定でしかないのですが、西洋ではまだまだ驚愕の「奇跡」としてスピリチュアル分野に位置づけられているからだと思います。

あまり有名ではないこの小説ですが、騙されたと思って一読することをお薦めします。
心洗われること間違いなしです。


サンテグジュペリの本

やはり、「奇跡」と言ってはずせないのはサン=テグジュペリの本です。
上に出したリチャード・バックも、彼の影響は確実に受けているものと思われます。
(宮崎駿がバックの影響を受けているという噂もあるけど、そうではなくサンテグジュペリの影響を受けたものでしょう)
有名過ぎて紹介するまでもない名作ですが、『星の王子さま』って読みましたか?
もし子供の頃に読んだ記憶がボンヤリとしかないなら、ぜひ大人になって読み返してください。
これは意外にも大人になってから遭遇する奇跡の物語であり、大人であるからこそ涙出来るはずです。




2015年1月5日


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秋の夜長におすすめ、文学エッセンスのある長編ミステリ5選

ちょっと文学の味わいのあるミステリをご紹介します。
(私のように)謎解きオンリーなミステリが苦手という人もこれなら読めるはず。
夜が長くなるこれからの季節、じっくり小説世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

ロング・グッドバイ





【内容情報】(「BOOK」データベースより)
私立探偵フィリップ・マーロウは、億万長者の娘シルヴィアの夫テリー・レノックスと知り合う。あり余る富に囲まれていながら、男はどこか暗い蔭を宿していた。何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。しかし、やがてレノックスは妻殺しの容疑をかけられ自殺を遂げてしまう。が、その裏には哀しくも奥深い真相が隠されていた…大都会の孤独と死、愛と友情を謳いあげた永遠の名作が、村上春樹の翻訳により鮮やかに甦る。アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長篇賞受賞作。

ハードボイルド・ミステリの名手、レイモンド・チャンドラーの代表作です。
随所にチャンドラーの愛した作家、フィッツジェラルドへのリスペクトが感じられる。アルコールと鬱屈した日々に溺れる主人公はフィッツジェラルドの投影か、それとも作者自身か。
ほろ苦くも深い味わいのある長編小説です。

グレート・ギャツビー




上で紹介した『ロンググッドバイ』を読むなら、一緒にこちらもぜひご堪能を。
(ディカプリオ主演の映画もあります)
いわゆる「人が死ぬ→犯人捜しの謎解きで物語が進む」というミステリジャンルの小説ではありませんが、華麗な生活を送るギャツビー氏の存在そのものがミステリーと言えます。
もちろん、この小説の価値は謎解き「だけ」ではありません。輝かしい人生の裏側、そこはかとない哀しみを知るでしょう。世界中で愛されているアメリカ文学の最高峰です。


死ぬときはひとりぼっち




レイ・ブラッドベリの幻想的な味わいのあるミステリです。 廃墟のように寂れた街で起きた怪事件を中心として、主人公が様々な人と接触していきます。ストーリーの筋を追うのではなく、主人公とともに街を泳ぐ感覚を味わうための小説と言えます。 この小説の世界はどこかで見た景色であり、きっとこれから見る景色でもあります。あの色褪せた景色にはまる人は多いはず。

罪と罰




古典中の古典、ドストエフスキーの『罪と罰』です。
まだ読んだことがない人は、「何やら難しそうでお高くとまった文学」と思って毛嫌いしているでしょうか。
しかし意外にもこれは、ストーリー性の高いミステリ(サスペンス)とも読めるんです。
「文学は苦手なんだけど…読みやすい文学にはチャレンジしたい!」という方に。初チャレンジの文学としてお薦めです。
(もちろん、ミステリ要素「だけ」ではなくあくまでも文学なので、思考は鍛えられると思います)


重力ピエロ




一点だけ、現代小説よりご紹介。
ファンの方は怒りまくるだろうが、これはミステリではなく文学であると私は思う。
おそらくミステリしか売れないという現代小説の現実があり、出版社がミステリしか受け付けないので、やむを得ずミステリの装丁をして差し出したというところか。おかげでミステリファンには絶大に不評ですが、ミステリ「だけじゃない」ものを求めている方にはお薦めです。
重い背景を持つ春には共鳴する読者も多いはず。

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