読書備忘録 “いつも傍に本があった。”

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中嶋博行『司法戦争』感想(本)

※この記事にはネタバレがあります。以下、未読の方はご注意ください※
2011年 再読。
昔読んだ時は、「知的でソフトな人に裏の顔があり…」という、二時間ドラマ好きの主婦が喜んで飛びつきそうなステレオタイプの犯人像にひどく落胆した覚えがある。
壮大な国家戦争へ突入していくと見せかけて、個人の怨みによる犯行という狭い世界で終わったところも落胆だった。

が、改めて今読み返してみると、プロの弁護士のお立場から世界の司法の問題点を浮き彫りにし、警鐘を鳴らされていたことが分かる。
まさに昨年のアメリカの謀略によるトヨタの受難を思わせる場面(日本の自動車メーカーPL訴訟)から小説は始まり、現在の“陪審員裁判”(裁判員制度)を予見した結末で終わる。 最後の法務官僚の言葉には痺れた。その通りなのだろう。

あの当時はまだ裁判員制度は始まっておらず、秋月の言葉を深く考えてみることもなかった。 冤罪大量生産工場と化している裁判所から、犠牲者を救い出す手段として裁判員制度は良かったかもしれない。
だが結局は裁判官に指図されないか、買収はないか、民事にまで広がればどうなるのか、等々考えていく必要がある。
合格率40%で量産した法曹たちが行き場のないまま腐っているこの惨劇も、目を開けて見つめなければならない。

本来は論文とか議会への提唱という形をとられるはずのもの、小説という手段が選ばれたに過ぎない。著者はジョン・グリシャムのようなエンターテイメントを目指されたらしいし、あくまでも小説は小説で楽しむべき。だが、不可抗力で小説に刻まれた一人の法曹の叫びを覚えておきたい。

//追記、「今ここにある危機」。
少し前に話題となったTPPは弁護士や医師の自由化をも推進するものだった。大国からレベルの低い弁護士たちが襲来して日本を食い荒らす、という小説の設定はフィクションではない。今こそこの小説を読み、その危険性を肌で知るべき。

出版社/著者からの内容紹介
日本を震撼させるリーガル・サスペンス
沖縄で最高裁の判事が殺された。判事はなぜ死なねばならなかったのか。東京地検、法務省、内閣情報室、警視庁、あらゆる国家権力を巻き込みながら潜行していく巨大な陰謀がついに暴かれる。現役敏腕弁護士作家ならではのリアリティ。司法制度を根本から問い日本を震撼させるリーガル・サスペンスの最高峰!


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牛島信『利益相反/コンフリクト』



帯の紹介文、
「顧問弁護士と監査役の立場から父親を糾弾する息子の葛藤とは?」
 とのことだったので、実の息子が父親の不正を暴く葛藤のドラマを期待して読んだ。が、想像していた内容ではなかった。
 ギリシア悲劇さながらの展開に登場人物たちが鬱々と悩んで独白するあたり、もしかしたら純文学に近いものを目指されたのかもしれない。一般受けしないだろうなと思った。
まあ「殺人事件の犯人捜してメデタシメデタシ」しか能のない馬鹿なミステリ小説よりは遥かにマシ。法律モノと言えばミステリという時代が去ってくれて良かった。
出来れば巨大な不正に挑むドラマが読みたかったけど、プロの弁護士さんが描いたものとしてリアルが感じられ良かった。
 弁護士の呟きには色々考えさせられたし、論語が出てくるあたり本当に堪能した。
法学部の学生が読むと面白いかもしれないな。

(逆に言うと法学部卒でなければ面白くもなんともないだろうなと思う。楽天レビュー「ここまで面白くないと思った小説は僕が読んだ中では過去を振り返っても皆無です。」に、それもそうだろうと笑った)

2010年10月27日筆 2017年10月14日追記

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
顧問弁護士と監査役の立場から父親を糾弾する息子の葛藤とは?樋山は不動産会社を創業し、年商1500億円の上場企業にまで成長させたオーナー社長だ。ある日、監査法人からトンネル会社の不正を指摘され、社内に激震が走る…。国際弁護士作家の書き下ろし傑作・企業法律小説。


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