読書備忘録 “いつも傍に本があった。”

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池澤夏樹『静かな大地』感想(本)



明治維新。世の中は変わり、侍の権威は失墜した。
 これまでのように上から言われる仕事をしていれば食べていけた時代とは違う。侍たちは生活手段を求め彷徨った。
 徳島の侍から襲撃された淡路の侍たちも、島を離れることを余儀なくされた。移住先は未開の地、北海道――。
移住した淡路衆の中に、幼い宗形三郎がいた。
三郎が新しい地を探検しているとき、アイヌの子オシアンクルと出会う。たちまち三郎は彼と親友になる。
オシアンクルを通して、三郎はアイヌとの仲を深めていった。
けれど次第に深くなる絆が、三郎を輝かしくも悲劇的な運命に導いて行く。
父が娘へ、娘が夫へ語る言葉を紙面に写し取ったかのような、変わった形式で綴られている。
(おそらくアイヌの伝承法をイメージしたもの)
 人が喋る言葉そのままに、ストーリーは行きつ戻りつして少し分かりづらい。
しかしたくさんの人が語る記憶の断片が結びついた時、宗形三郎の人生とその悲しみが鮮やかに浮かび上がる。それは眩し過ぎて、目を細めずにいられない。
『静かな大地』は全人生をアイヌに捧げた宗形三郎の英雄譚。
そして人類の暗部を抉り出した批判的な歴史文学でもある。
この小説で描かれたのは「アイヌ」対「和人」だけれど、「アイヌだけが悲惨」で「和人だけが酷い」のではない。同じような対立と迫害は世界中のあちこちで繰り返されてきた。たった今も世界のどこかで宗形三郎が戦い、潰されかけているだろう……。
宗形三郎がアイヌと成し遂げた牧場の繁栄が輝かしいだけに、待ち受けていた悲しみが深々と胸に刺さる。
 ラストに挿入された寓話と詩を読みながら、涙が止まらなかった。
“あの夕日”、
木々の間できらりと輝いた夕日をきっと一生忘れられない。

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