『グノーシス~古代キリスト教の異端思想』(筒井賢治著,講談社選書メチエ) より引用    にもかかわらず、正統多数派教会は、正典の内容的な統一性には目をつぶり、ひいては教義の一貫性を犠牲にしてまでも、伝統にしたがって現行の二七文書をそっくり飲み込んだ。マルキオンは、福音の純粋性にこだわって伝承を選別し、なおかつテキストのレベルでも取捨選択をおこなった。それによってマルキオン聖書が成立し、マルキオン派教会が立ち上がった。しかし、この運動は長続きせず、西方ではおそらく五〇年程度しかもたなかった。他の二世紀のキリスト教流派、ウァレンティノス派やバシレイデ―ス派も、規範的な文書集…