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4月, 2019の投稿を表示しています

「沈潜」という言葉に共鳴。『「本から学ばない人」と「読書家」の致命的な差』

ネットにしてはめずらしく共感できる、秀逸な記事だなと思って読んでいたら齋藤孝氏だった。 ⇒「本から学ばない人」と「読書家」の致命的な差 昔、この人の『読書力』という本がとても偏った内容で、全く共感するところがないと思ったのだがこの記事はいい。 旧制高校の学生が使った言葉で「沈潜(ちんせん)する」というものがありました。自己研鑽すること、自分を磨くことを「沈潜する」と表現したのです。とてもいい言葉だと思います。 忙しい毎日、膨大な情報洪水に流され浮遊するのではなく、「沈潜する」時間を持ちたい。本を読んで著者と一対一で対話する。あるいは自分自身と対話する。作品の本質に迫り…

『ガラス玉演戯』より、神様の言葉

『ガラス玉演戯』ヘッセ著、高橋健二訳。復刊ドットコム版より。 久しぶりのヘッセで、まだ冒頭ながら衝撃を受けた箇所。 「ああ、ものごとがわかるようになればいいんですが!」とクネヒトは叫んだ。「何か信じられるような教えがあればいいんですが! 何もかもが互いに矛盾し、互いにかけちがい、どこにも確実さがありません。すべてがこうも解釈できれば、また逆にも解釈できます。世界史全体を発展として、進歩として説明することもでき、同様に世界史の中に衰退と不合理だけを見ることもできます。いったい、真理はないのでしょうか。真に価値ある教えはないのでしょうか」 彼がそんなにはげしく話すのを、名人は…

哲学書より? メモ

本棚の整理中に発見したメモ。 何の本を読んでいる時にメモしたのか忘れたが、たぶん哲学関連のガイド本。 西洋では、「神は自由」と定義したいために「一切は偶然」「個人は自由」という思想が生まれた。 ※神は普遍に縛られない。だから人間個人と神を切り離し、人間の知覚から「普遍」を創り出さなければならない。そのような考えから形而上との決別――「オッカムの剃刀」が生まれた。近世哲学の源流。

『危険な読書』(BRUTUS 2019年 1/15号)に今年も手を出してしまった

今年も抗えずに買ってしまった、BRUTUSの『危険な読書』。 去年の黒に続き、今年は赤!  コンビニの棚で光る赤が眩しかった。これは抵抗できないでしょう。 去年は 『危険な読書(黒)』の名リード文 に痺れて涙まで浮かべてしまった私だったが、今年は期待し過ぎたせいかそれほどでもなかった、かな。 でも流行本を追わないコンセプトは健在で、そこにこそ私は共鳴を覚えているので嬉しく思う。 今回のリード文引用: 世の中には2種類の本しかないという。読まなくていい本と読んでもロクなことにならない本。「危険な読書」とは書かれた中身のことばかりを言っているのではない。たとえ国を乱すような、…

『虐殺器官』より引用

伊藤計劃『虐殺器官』より、気になった箇所を引用。  ぼくは、ことばそのものがイメージとして感じられる。ことばそのものを情景として思い描く。この感覚を他人に説明するのはむつかしい。要するにこれは、ぼくの現実を感じる感覚がどこに付着しているかという問題だからだ。何をリアルと感じるかは、実は個々の脳によってかなり違う。ローマ人は味と色彩を論じない、という言葉があるのは、そういうわけだ。  ぼくがことばを実体としてイメージできるように、「国家」や「民族」という抽象を現実としてイメージできる人々がいる。 P42-43 ことばに対する感覚、面白い。我々も言葉を見たり聞いたりした瞬間に…

伊藤計劃『虐殺器官』感想。同時代に生き、虐殺を眺めた者としてのシンパシィ

しばらく前に読んだ本。 読んだ本をいちいち他人に報告しなくなって久しいが、これは公開で感想を書きたくなった。年が明ける前に書いておく。 (まとめず思うまま書きました。長いです) 作家の敬称略。 伊藤計劃、『虐殺器官』という伝説 『虐殺器官』は2007年に発表された伊藤計劃の小説。 伊藤計劃は2009年に34歳で早世した。 病床で10日間で書き上げたというこの小説は彼のデビュー作。SFの枠を超えた傑作であり、彼の死後も伝説として語り継がれている。 「ベストSF2007」国内篇第1位。「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位。(ウィキペディアより) 最近アニメ化され再び話題となった…

小説イントロで改めて確認した。昔の小説冒頭って、インパクトあったな

99人の壁、小説イントロが面白かった 『クイズ 99人の壁』 という番組がある。 一般の人が、自分の得意ジャンルで99人の他の回答者と戦う、という壮絶なクイズ番組。 自分が最も詳しいはずの得意ジャンルで回答するのだから当然に勝てると思うはず。でも99人が相手だと難しい。 それで滅多に勝ち抜いて賞金獲得する人はいないのだけど、今日レギュラー化初で勝ち抜いた人の得意ジャンルが 「小説イントロ」 だったので面白く眺めていた。 「小説イントロ」とは、音楽のイントロのように小説冒頭文を聴いただけで何の小説であるか当てる、というクイズ。 流行歌を言い当てる普通のイントロとは違い、一般…

元旦に、コンビニで見かけた『危険な読書』という雑誌。 まずこの黒背景、黒い本に白文字の明朝で一文、“危険な読書” との縦タイトルに惹かれ手に取ってしまった。 (これは本好きなら手に取らざるを得ない表紙。この表紙デザインから素晴らしい) 中を開くと目に飛び込んできた文に打たれ、しばし立ち尽くした。 リード文、と言うのか? 特集記事を紹介するための文に痺れたのだった。 引用する。 当たり前と思われていた価値観が世界中で次々と崩れ去るいま、 もはや流行りの本をいち早く読んだとか、これまで読んだ本の数を指折っていてもつまらないじゃないですか。 たとえ一冊であっても深く心に突…

二流の読書でバカになる? 広く浅くの雑読を後押しする、嬉しい言葉

東洋経済サイト ⇒『読む本でバレる「一生、成長しない人」の3欠点~「二流の読書で、バカになる人」も大勢います』 この記事が「一流」や「二流」などと格付けしていることについて私はどうかと思うし、コメント欄を見ると同じ意見の批判が多い。 ただ、「一流」「二流」をビジネス的な地位や富ではなく、単純に教養の質と考えれば、当たっているところもある。 特に海外の読書人の読み方には共鳴する。 ただし、世界の一流の人を見ていて感じるのは、「優秀な人に限って、読書は肩肘張らず、気の向くまま好きなものを読むのが基本」ということである。 読書だからといって、毎回勉強になるものを大真面目に読む必…

恋愛小説として読む夏目漱石 おすすめ作品

休日に日本文学に親しむのは、いかがですか? 「文学なんて難しい」と思うかもしれませんが、意外に夏目漱石などは現代人にも馴染みやすい恋愛小説を遺しています。 いつの時代も人を悩ませ、惹きつけるのは恋愛の苦悩なのですね。 苦い思い出のある大人はもちろん、これから恋をする若い人たちへお奨めの漱石作品をご紹介します。 ☆下記「漱石作品」リストは画像を表示するため楽天リンクをお借りしていますが、電子書籍なら無料本があります。 ※画像の下のほうにKindle無料版へのリンクしておきます 三四郎 【Kindle無料版】三四郎 熊本の高等学校を卒業して、東京の大学に入学した小川三四郎は…

守屋 淳『孫子とビジネス戦略』読み始めメモ

このブログ向きの話かもしれないので上げ。2011年、読み始め時のメモです。 ※下画像のリンク先は電子書籍です まだ読み始めだけど面白いです。 守屋先生の本は解説本などでお世話になったことがありましたが、今回は純粋な読書としてはまりました。ちょっと燃えています。 「孫子をビジネスに活かそう」、というタイトルのマニュアル本は世に山ほど出ていて、私も昔何冊か読んだことはあるが一度も納得出来たことがなかった。 どれも詐欺、と言うのは言い過ぎかもしれないけど、孫子の言葉を漫然となぞってビジネスに置き換えているだけで内容がない。 古代の偉大なる戦略家の神秘性を借りて、「この法則を実…

三浦しをん『船を編む』感想(本)

大手出版社の玄武書房、辞書編集部を率いる荒木は、定年間近となり最後の大仕事に傾注していた。その大仕事とは、次代の辞書編集部を担う優秀な人材を探して引き抜くことだった。 辞書を作る仕事は特殊で、監修の松本先生曰く 「気長で、細かい作業を厭わず、言葉に耽溺し、しかし溺れきらず広い視野をも併せ持つ」 者でなければ務まらない。 今の時代にそのような若者が、はたしているのだろうか。 人材探しは難航し、社内の隅々を訪ね歩き若い部下の話も聞いた末、ようやく巡り合ったのが真面目――ではなく馬締(まじめ)光也。 院卒の二十七歳、築数十年の下宿先で本に埋もれて暮らしている変人だった。身だしな…

ジョージ・オーウェル『1984年』感想と紹介(本)

『1984年』の現実化へ真っ直ぐ突き進む現代。消えかけている人間性を失わないために語彙を盾とせよ。 内容紹介: 第三次世界大戦後、世界は三つの大国に分かれて統治されていた。その中の一つ、オセアニア国では「偉大な兄弟(ビック・ブラザー)」の率いる党によって人民が管理されている。 勤務先でも街中でも、自宅の部屋でさえ、「テレスクリーン」と呼ばれる放送受信機を兼ねた監視カメラが人民の一挙手一投足を眺めている。 言語は党が決めた「新語(ニュースピーク)」を用いるよう求められ、結婚や性交渉も党によって管理されている。自由な恋愛や日記を書くなどの行為は許されない。それらは明文化された…

春江一也『プラハの春』感想(本)

2000年刊行の本。積読から引き出して読んだ。  2016年読んだなかで最もはまった小説。 内容: 若き日本国大使館員の堀江亮介は、プラハ郊外で車が故障して困っていた女性を助ける。美しい女性に魅了された亮介だったが、会話の中で彼女が東ドイツ人であり「関わってはならない」ことを知る。しかし頭では分かっていながら運命に抗えず彼女へ惹かれていく。 1968年「プラハの春」の下で翻弄される愛を描いた小説。 著者は本物の外交官で、1968年にチェコスロバキアで起きた民主運動「プラハの春」を現場で経験されている。そのためプラハの街並みや人々の生活描写は細かく、地図と照らし合わせなが…

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』感想(本)

内容: 二十代の頑健な体を持つ主人公は、仕事を失い、目下ニート生活中で体力を持て余している。 対照的に「体のあちこちが痛い」と言い、歩くこともおぼつかない(ように見える)老齢の祖父が主人公の家に同居している。 毎日「早く死にたい」と訴える祖父に同情した主人公は、祖父の願いを叶えるため「体力を衰えさせ死期を早めさせる」という作戦を実行することにした……。 あらすじを書くと何か陰惨な事件につながる展開を想像するが、そんな暗い文学ではないのでご安心を。 少々ブラックながら思わず「くすり」と笑ってしまう仕掛けが施されている。 主人公の考えが正しいのか間違っているのか分からないが、…

芥川龍之介『杜子春』を読み直す

先日、 片頭痛の話『歯車』 にて芥川龍之介について書いたらむしょうに芥川を読み直したくなって、kindleで芥川ばかり読んでいる。 読み直して改めて感動の落雷に打たれているのは、『杜子春』。 ラストのこの一節は、大人になった今になって触れると涙が出るではないか。 「どうだな。おれの弟子になつた所が、とても仙人にはなれはすまい。」 片目眇(すがめ)の老人は微笑を含みながら言ひました。 「なれません。なれませんが、しかし私はなれなかつたことも、反(かへ)つて嬉しい気がするのです。」 ――お前はもう仙人になりたいといふ望も持つてゐまい。大金持になることは、元より愛想が…

村上春樹の小説と、村上春樹論

中学の頃から「この人の薦めてくれる本にハズレはない」と思い、尊敬している読書好きの友人が 「私、村上春樹だけは何が良いのか理解出来ないんだけど。ぜんぜん意味分かんない」 と言っていた。 ああ、やっぱりこの人は真実本好きの正直者だと知って嬉しかった。 “裸の王様”が裸だと指差して言える人は稀有だ。 村上春樹を「裸の王様」と言っているわけではないですよ。 ただ誰でも好き嫌いはあるはずなのに、春樹だけはどうして日本中の誰もが手放しで「面白い」「大好き」と絶賛するのか。少し不思議に思いまして。 それって本心なんですか? あなたは、ほんとうに心から村上春樹を「面白い」と思っています…

谷崎潤一郎『春琴抄』紹介と感想

物語は二つの墓の描写から始まる。 「鵙屋(もずや)」という名家一族の墓から少し離れた空き地に建つ、通称春琴(しゅんきん)の墓。 その隣にひっそりと寄り添うように建つ小さな墓には「門人」と刻まれている。 小さなほうは「温井佐助(ぬくいさすけ)検校」の墓だった。検校(けんぎょう)とは尊敬される高位の音曲家のことだが、その地位にも関わらず何故に小さな墓であるのか。何故に「門人」と刻まれているのか。 語り手は、 此の墓が春琴の墓にくらべて小さく且(かつ)その墓石に門人である旨を記して死後にも師弟の礼を守っているところに検校の意志がある。 と説く。 さらに 奇しき因縁に纏わ…

万城目学 おすすめ

純文ばかり読んでいるわけではないんですよ。 と言うわけで、肩の力を抜いて読めた万城目本のおススメ二冊をご紹介します。 ■鴨川ホルモー 【内容情報】(「BOOK」データベースより) このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、…

ヘミングウェイ、おすすめリスト

一時期ヘミングウェイにはまり、読みふけっていた時期がありました。 年を取ってからまた読みたい作家の一人です。 世界的に有名な小説ばかりですので、一度は読んでみて損はないと思います。 読みやすい順に並べます。 老人と海 【内容情報】(「BOOK」データベースより) キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく…。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通し…

サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』村上春樹訳 感想と紹介

十代の頃の自分の背中を見た。反抗などとは呼べない、ただ壊れそうなだけの背中。 『ライ麦畑でつかまえて』は子供の頃から何度もトライし続けたのだが、ほとんど最初の辺りで挫折してしまっていた。 だから自分にはこの小説が理解出来ないのだ、永久に縁がないのだと思っていた。 だが新訳で読んだら縁がないどころか、がんがん響いた。 かつての自分がここに描き出されているのを知って痛々しくも懐かしかった。 旧訳がいけないというのではない。 ただ自分の育った時代において、あの時代の人々の喋り口調はほとんど外国語に等しいものであったということだ。 それに日本がいちばん元気だった時代の口調はどう…

ガルシア・マルケス『百年の孤独』感想と紹介

読み終わり頁を閉じた瞬間、熱風が体の中を吹き抜けて去ったことを感じた。 生命は終わる。魂も去る。 物語は読み終われば目の前から消えてしまう。 けれど確かに読んでいる間、生命の風は熱をもって胸の中に渦巻いていた。 濃厚な生命の営み、魂の脈動を体感する小説だ。 人も動物も生まれ死に再生し、やがて消え去る。生と死のダイナミックな営みが巻き起こす一時の風こそが、世界の求める力。 この世界観は東洋の輪廻思想にも通じる。 不思議と生命力は文章からも伝染するようで、読書中も読み終わってからもしばらく体の底から湧き上がるエネルギーを感じ続けた。 “生命の水”、まさにウィスキー的な小説と言…

サン=テグジュペリ『星の王子さま』池澤夏樹訳 感想

池澤夏樹の新訳『星の王子さま』を文庫で手に入れた。 我ながら信じられないことに泣いてしまった。 初めて『星の王子さま』の物語が理解できた。この物語が長く読み継がれている理由も。 子供のころ一度だけ『星の王子さま』に挑戦したことがあったが、説教臭い子供騙しのファンタジーとしか思えず、すぐに放り出してしまった。(自分が子供だから、子供向けに意識された内容がよけいに嫌だったのだと思う) 今になってようやく『星の王子さま』を理解できたのは、訳がどうのというよりも、自分が大人になったからだ。 花の我がままに疲れて逃げ出したことのある大人。 逃げ出しておきながら、ほんとうは弱い花をい…

たまにはビターな恋愛小説でも。大人の恋愛小説7選

あまり恋愛小説を好んで読む人間ではないのですが、適当に手に取った本が恋愛小説で、気付けば読みふけっていることが時々あります。 甘いものよりもビターなほうが好みです。 ここに、そんな私が偶然出会って良かったと思う数少ない恋愛小説をまとめておきました。 (他記事と重複あり) ナラタージュ 高校時代の男性教師との、痛みを伴った恋愛。 執筆した著者の時間がまだ主人公と近いせいか、恋愛の痛みが現実そのまま写し取られており、小説というよりは風景を撮影した写真に近いのではと思うほどです。 だらだらと日常生活を描く箇所がありそれを嫌がる読者もいそうですが、そのような日常を描いたのも「現実…