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島本理生『ナラタージュ』 感想(本)



重い、痛い、切ない。
覚えのある情景を目の前で映し出される。ようやく癒えたと思い込んでいた心の傷を、ふたたび抉られる……。
愚かしい恋をしたことのある人間なら、読むのが苦しい小説。
「ナラタージュ」~過去語り、というタイトルは嘘だろう。この小説はあまりにもその時に近い。

作家が小説を書くときは一度、現実の出来事を自分で飲み込んで消化する。(はずだと思う)
だからどのような小説の痛みも情景も、作家自身の色を持っている。
その色が現実よりも濃いか薄いかは作家の力量にかかっているのだけど、とにかく色を楽しむのが、小説という“芸術”の味わい方だろうと思う。
しかし、『ナラタージュ』ではこの消化作業が抜けている。
何のフィルターも通さず、起こった出来事を淡々と描写するだけ。
だからこれは“小説”とは言い難い。
インスタントカメラで撮った写真のようなもの。
だからこそ、もし同じような馬鹿げた恋愛をしたことのある人間なら、その場その時に連れていかれて胸がつぶれそうになる。
正直、読み終わって何も言葉が思いつかないほど私には辛かった。
現実はこんなにも辛いから、封印していたのだと思い出してしまう。

同じ経験をしなければ意味不明な小説かもしれない。ちょうど故郷の写真は自分には意味を持つけれど、他の人には無意味なように。

それにしても、なんという残酷な心理描写だろうか。どのような残虐シーンより目を逸らさなければならなかった。
男はいくつになっても馬鹿でくだらない。
そして女の人はそんな男を愛し恨みながら、地上でもっとも残酷なことをしてのけるのだ。
愚かでみっともない、これが恋愛。

2010年頃 筆

内容:
(「BOOK」データベースより)
お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務があるー大学二年の春、母校の演劇部顧問で、思いを寄せていた葉山先生から電話がかかってきた。泉はときめきと同時に、卒業前のある出来事を思い出す。後輩たちの舞台に客演を頼まれた彼女は、先生への思いを再認識する。そして彼の中にも、消せない炎がまぎれもなくあることを知った泉はー。早熟の天才少女小説家、若き日の絶唱ともいえる恋愛文学。