読書備忘録 “いつも傍に本があった。”

佐々木毅『プラトンの呪縛~二十世紀の哲学と政治』感想



数か月前に読んだ本だが、「哲学科を出たわけでもない人間には感想を述べる資格もない」と言われそうで何も書けずにいた。
素人なりのバカな感想を述べれば、この本は心の底から面白かった。
文芸賞を受けている本に対して今さら言うことではないが、名著中の名著と思う。
門外漢の私のような人間でも近代哲学が概観できることは奇跡の書と言える。

文章は一般的に表現されており非常に分かりやすく、哲学を専攻した者でなくても読むことが可能。
だからと言って初心者向けの哲学入門書なのではない。一人の哲学専門家が、その人生をかけて読み込んできた膨大なテクスト解釈を、これだけ薄い本の中に凝縮してくださっている。それ故、読後に圧倒の充実感を得られる濃厚さがある。

また広く膨大な資料を扱っているのだが、「プラトンという古代哲学者が二十世紀の政治にどのように利用されたか」、という一つのテーマを軸として概観しているために全体が奇跡のまとまりを見せている。
この軸から視野を広げ二十世紀を眺めることで、歴史も人類も見えてくる。
何よりも今が見える。
これを文庫に収まる量で執筆された著者は天才としか言いようがない。(と、元東大総長に対して偉そうだが素人だからこそ思う。素人にも分かりやすく書くことは東大教授にはむしろ難しいことだろう)
もしこの本を読んで得られる感覚を原テクストから得ようとするなら、いったい何年かかることか。
この本に出て来るテクストのどれもが直前の誰かの論文に拠ってわずかな新解釈を加えたものに過ぎず、概観するためには全てのテクストを辿って読んでいかねばならない。もちろんそれが本来の読書の仕方で、そうするのが望ましいのだが、既に他の仕事を持ち・研究以外の生活をしている我々には物理的に不可能……。
この本を水先案内人とし、何を読むべきか知ることが出来た。私には有り難い「導きの書」だった。

個人的には、近現代の政治・戦争は最も興味のあるジャンルだから、それを背景としてプラトンを眺めることが出来たのでとても興奮した。
政治哲学については色々と考えることが多過ぎた。
そのジャンルに関する雑感はここに書く種類の話ではないと思うので、他で書く。
とにかく読書好きな人には絶大にお薦めの本です。
こんな本には一生に一度出会えるかどうか。(薦めるつもりはなかったろうが)教えてくださった人に感謝したい。


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